
石上賢介「婚活したらすごかった」

石上賢介「57歳で婚活したらすごかった」
上記のとおり、本書はシリーズである。
最初からシリーズを企図したものではなく、第一作の方は40歳を過ぎた頃に書かれたもの。
二作目は、一作目から17年経って、婚活の成果は果たして? という編集者の興味から石上先生にアクセスしたら、いまだシングル生活を続けていらっしゃり、また婚活にチャレンジしてみた記録、と聞いている。
わたし自身がちょうど57歳ということもあり、最初は二作目のタイトルに惹かれて、その経緯を知り、だったら両方とも読んでみるか、と購入。
このブログをお読みの方には言うまでもなく、わたしには愛妻がいるので、特に高齢者の婚活ノウハウ本として期待して読んだわけではない。
しかし、ここのところ、わたしは心変りがあったのである(細君への愛が、ではないよ)。
十代から三十代にかけて、わたしは自分が、事故か、病死か、自殺で、早世するだろうな、という、根拠のない確信があった。実際、2000年代に創薬された薬で命を救われているので、これもあながちウソではない。
そして還暦もスコープに入ってきている歳になってみると、気持が変わってきた。息子亡き今、細君を看取って安らかに帰天させてあげたい――細君を残して死にたくない――という気持ちである。
そしてわたしは、やがて一人で死ぬ。孤独死することには、個人的に、なんの不安もない。
そうなってから、再婚する気は毛頭ないが、果たして57歳というこの年齢で、婚活市場でどれだけがんばれるものなのだろうか、という興味があって、本書を手に取ったのであった。
ご本人の紹介から――石上賢介(この著書の為のペンネームだとのこと)。職業はフリーライター。年収700万円。だがフリーランスなのでこれは一定しておらず、貯蓄も少ない。容姿は「十代以降褒められたことはない」とのこと。身長160センチ強。体重70キロ弱。小太りに見られる。東京郊外の「三流私立大学」出身。30代の頃、一度結婚してすぐ離婚のバツイチ。
しかし石上先生には、このいささか不利な条件を凌駕する特技がある。職業柄鍛えられた「人の話を聞いて引き出す」力と「文章力」である。
さて、石上先生の婚活はいかにすごかったのか――
というところで、いきなりなのだが、最初の章から石上先生、「ネット婚活サービス」でデートにこぎつけて、相手とベッドイン(しかし相手はドMというオチで笑いを誘う)しているのだからびっくりする。
もちろんこれは、ライターとしての石上先生のサービス精神と本能で、本の最初からガツンと「引き」を用意したのだとはわかるのだが、こちらは「デートにも苦戦するのかな?」と思って読み始めたので、これには多少、鼻白んでしまった。
まあ確かに「すごかった」わけで、タイトルに誤りなし、だが。
さてその後の婚活だが、「お見合いパーティ」、「結婚相談所」、あまり男性の婚活には役に立たない「海を渡って婚活編」のように続く。
石上先生はどれだけ苦労したのだろう、と読み進めていくのだが、これが飄々としていて、けっこうおモテになるのである。どのルートでも、デートまで何回もたどり着いている。そしてベッドインした回数も。
ちょっとカトリックとしては「そこまでいったのなら結婚してよ」という感覚なのだが、40代を過ぎると「カラダの相性も確かめないとね」と女性が臆面もなく言うのだそうから、いやいや、神様もびっくりである。
そういうものなの? ぼく、子どもだからわかんないや。
こんな感じで、結局一冊目の「婚活したらすごかった」は、石上先生の結婚報告はなしで終わる。
最後に詳細なアドバイスがあるので、これは実際に婚活する人には役に立ちそうだ。
そして17年後。「57歳で婚活したらすごかった」である。
こちらの冒頭部のヒキは、41歳の女性から「連絡すんなって書いてあんの読めないのかよ。老眼鏡つけとけよ。てめーからLINEくるだけでゾッとして不眠になるわ。クソ老人!」と罵倒された、というものだ。
これは婚活アプリでマッチングした相手。一度デートしている。意気投合した、と思った石上先生は、その後も連絡をとろうとするが、それで来たのがこのLINEだったという。
うわ、キッツ!
わたし自身も同い年なので、「クソ老人!」と罵られた気分になる。
しかし相手の女性も女性だ(バツイチ41歳)。想像するに、この女性も同じようなことを誰かに言われた経験があるのだろう。悪口とはそういうものだ(自分が言われてグサッと来たものを、誰かに刺し返す)。
その後の石上先生は、予期せず本物の恋をしてフラれ、失恋を経験したり、婚活カウンセリングを受けたりと、いろいろと経験をなさるのだが、これがまた、どこか飄々としていて、なんというか「本気度」が感じられないのであった。
そう、これは二冊通してそうなのだが、やはり石上先生の職業柄、どこか「記者の顔」が出てしまっているのである。失敗した実体験も「ネタになる」と思ってギリギリのところでダメージを回避しているというか、余裕を感じてしまう。
しかも、二作目の方でも、何度かベッドインまでたどりついたお相手がいて、石上先生、実はけっこうおモテになるのだな、と感じてしまう。
だいたい、デートはライターという本業からして、相手から話を引き出すのがうまいだろうし(人は自然に相手に喋らせられると、相手に好感を持つ)、食事代も自分が全額持つというスマートさだ。体型を気にしていらっしゃるが、これもジムに通って清潔感を保っているという。
正直、通して読んで、その気になれば石上先生は、この婚活を通して、二、三度、成婚できたのではないか、と思ってしまった。
ただもう、先生自身、自分の生活を変える気がないので、そこまで踏み切れないのだろう。という印象だ。
最後に石上先生はこんなふうにまとめている。
「誰かとともに生きたい」ではなく「誰かのために生きたい」と思えるくらいの心のゆとり、経済的なゆとりを持ってこそ、婚活は成就するのではないだろうか。
この心得は婚活だけではなく、結婚生活でもまったくそうである。
今のわたしが、細君のために生きたい、と思うようになったように。
さて、まとめるとこの二冊、一見、高齢者向けの婚活お笑い本にも見えるが、どうしてどうして、かなり実践的な二書である。若い方で、婚活がうまくいっていない、という方にも、絶対役に立つ情報があるように思う。
それにしても、なぁ……。
わたしは新自由恋愛結婚主義者なのだな。やっぱり結婚は恋愛からのゴール(そしてスタート)に限ると思ってしまう。
そうでなければ、上記の「誰かのために生きたい」という気持ちは育たないと思うから。