2017年04月10日

【回想録】モルフィーワンの思い出・その1

今日は税務署が主催する「決算期別法人説明会」で、隣の市の会場まで出張中(これを書いているのは三月中旬)。
うちの会社は三月決算でそういう会社はとても多く、よって会場も広くて出席者も多い。他の月を決算月としている会社もそれぞれの月ごとに説明会が開かれているそうなのだが、うちの税務署管内だと二十社くらいしかいないらしい。

出席人数が多いから、隅っこでこうやってブログの記事を書くという内職もできる(笑)。
いやもちろん、肝心かなめのところは注意して聞いてますヨ。

体調不良その他で休んだ年もあるが、かれこれ十数年以上出席していると、だいたい毎年の話に「同じ部分」と「変わった部分」があることがわかってくる。
同じ部分は聞きとばしていてもかまわないが、「変わった部分」は税務調整等に関わる部分があるので要チェックである。毎年「公益財団法人・全国法人会総連合」が編集した「会社の決算・申告の実務(平成××年度)」が配布されるのだが、そこの「平成××年度法人税関係の改正主要項目一覧」は必ず確認しておかなければならない。

そして思うのは、法人経理の仕組みというものは、とてもパッチが多いということである。もちろんすべてがそうではないが、税法の隙間をついて灰色的な節税をしようとする法人と、その隙間を埋める法改正のイタチごっこ、という感があるのだ。

よく、理系の人間は文系の人間を「論理的ではない」と莫迦にするが、感情の動物である人間が運用するシステムが論理的でないのは当たり前なのである。
そのあたりがわかっていない理系の人間は、「論理的ではない文系人間」が作ったシステムを甘く見て、高い代償を払わされることになる。



前ふりが長くなった。その一例が「モルフィーワン」だと記したかったのだ。
タイトルでは「モルフィーワンの思い出」とつけたが、「思い出」と言えるほど、わたしはモルフィーワンに関わっていたわけではない。オフに出たわけでも、出資したわけでもない。友人は先行予約して被害にあったが、わたし本人は、ただ、外から騒動を眺めていただけだった。まあ、言葉は悪いが野次馬だ。

モルフィーワン騒動というと、おそらくその名前か、Morphy Oneで検索した方が、わたしの記憶に頼ったこの記事より、情報の精度も高く量も多いとは思う。が、あえて、わたし自身の記憶のみに頼ってまとめてみる。ウェブなどで検索していないので、細部は違うところが多々あるかもしれない、と、予防線をはりつつ――

●起

かつてハンドヘルドコンピュータの名機であるHP200LXという機種があり、それが製造中止されたことに、多くの人々が嘆いていた。
そこに颯爽と現れたS氏が、自分ならHP200LXに変わる新しい端末を作れる、とロケットを打ち上げた。ニフティサーブFHPPCと黎明期を過ぎた頃のインターネット(メーリングリスト)が舞台である。
今でいう「クラウドファンディング」だが、当時はまだ、そんな言葉はない。
「オープンソフトウェア」に対し「オープンハード」という旗頭を掲げ、その考えに感銘を受け賛同した人々が、S氏を中心に、新しいハンドヘルド端末を作るプロジェクトを立ち上げた。その端末の名前が「Morphy One」なのであった。

●承

さて、問題は資金をどうするか、である。賛同者からお金をそのまま集めると莫大な額になることが予想された。個人であるS氏が同人ハードとして作成するのでは、お金を受け取った時点で、S氏に贈与税がかかるのでは、と危惧する声があった(個人的にはこのあたりの論理展開が非常に疑問である。なので記憶の変質かもしれない)。
そこでS氏は、営利法人のひとつの形態「合資会社」に目をつけた。

「合資会社」は、とても小さな営利法人形態である。ほぼ99.99パーセント、家族親族数人の出資によって設立され、運営システムもそのためとてもコンパクトになっている。定期的な役員登記の必要もなく、決算公告の義務もない。とはいえもちろんれっきとした法人であるから、儲けがあるなら法人税を、なくても法人市民税、法人県民税は納めなければならない。

このシンプルでスモール、タイトでシンな会社形式を、S氏は裏技的に使えると思ったらしい。合資会社の出資者100余名を、モルフィーワンの先行予約者と重ねて、全員を会社法における「社員」にして出資してもらうというアイデアである。

念のために言っておくと、社会通念上「社員」と呼ばれているものは、実は「従業員」である。「社員」は会社法的には「株主」であり「従業員」とは明確に区別されている。

こうして、S氏のウルトラCな「裏技」で生まれたのが、「合資会社モルフィー企画」であった。

ここで、一枚の写真のURLを貼っておく。リンク先はわたしのサイトではなく、写真の著作権関係もわからないので、直接このブログに貼ることはできない。

http://www.ninjin.net/radica/ohpa991212.jpg

これは、「合資会社モルフィー企画」を設立するために行われた、定款への「割り印オフ」の写真である。
このハンコがたくさん押された定款を見て、おそらく、会社の設立経験がある人ならば、めまいを起こすはずだ。そしてこれから先のこの会社の行く先に暗澹たるものを感じることだろう。

これから先、定款の内容を更新するにしても、役員を変えるにしても、増資するにしても、解散するにしても、すべてこのハンコを押した全員から、またハンコを貰いに奔走しなければいけないのである。しかも全員が見知った仲というわけではない。中には引っ越しして連絡が取れなくなってしまったり、不幸にも亡くなってしまう方も出てくることも考えられる。

要するに、S氏が会社法の隙をついたウルトラC≠セと閃いたこの設立法自体が、「合資会社モルフィー企画」の先行きを暗喩していたのである。

●転

「合資会社モルフィー企画」は文京区湯島に事務所を構え、morphyplanning.co.jpドメインも取得。ちなみにco.jpは日本国内の営利法人でないと取れないドメインである。順風満帆な滑り出しに見えた。当初の資金は、うろ覚えだが、一千万の単位を四捨五入すれば億に近いが、一億には届かない程度であったと覚えている。
Morphy Oneの開発だけでなく、ちょっとしたUSB関係の小物や、「伺か」というアプリケーションの後見者になるなど、S氏は精力的に活動していた。ちなみにS氏は合資会社モルフィー企画の社長(無限責任社員)ではあったが、もともとはどこかのメーカーの技術者であり、兼業でMorphy Oneの開発にあたっていた。

湯島の事務所には、当時まだ個人では手が出しにくかったモデラなども置かれ、オープンハードを標榜するだけに見学することができた。ただし、なぜか「印鑑証明持参のこと」というトンチンカンな条件もあった。

一年、二年が過ぎても、肝心のMorphy Oneの試作機が動き始めたといういいニュースは流れなかった。気長に待っていた出資者(社員)だけでなく、その後、予約者として入金していた者もおり、待っている人々は1,000人を越える人数となっている。
成果物が出てこないという現状に、皆がやきもきしはじめた。わたしのような野次馬まで、なんだなんだ事件か? とワラワラやってくるようになり、Morphy One騒動となっていく(当時は「炎上」とは言わなかった)。

     *     *

わぉ、妙に長い記事になってしまった。わたしはただの野次馬だったというに。
というわけで「転」で引っ張り、この記事、明日に続く。
posted by 結城恭介 at 08:00| 回想録