2017年04月11日

【回想録】モルフィーワンの思い出・その2

「ただの野次馬だったくせに思い出を語るたぁ、ふてぇ野郎だ。この桜吹雪が黙っちゃいねぇぜ」
「そ、その刺青は、へへーっ。なんとも、申しわけございやせん。まことにあっしゃ、ただの野次馬でごぜえやした」
「しかし途中で終わるというのも後味悪い。この金さんが聞いてやらぁ。土下座ついでにこのお白州で最後まで語ってみな」

というわけで、昨日の続きでごぜぇやす。

     *     *

●結

騒ぎが大きくなり、S氏もいよいよなにかを提示せねばならない状況となる中で、モデラによって切削されたMorphy Oneのモックアップが公開される。わたし自身は「モックアップならこんなものだろう」という印象は受けたが、口さがない2ちゃんねるモバイル板上の野次馬たちは「なんだこれは」「新手のブラクラ!?」と大爆笑。このツッコミにはわたしもつられて笑ってしまった。不覚。

湯島事務所で協力を申し出たが断られたという、出所不明のエンジニアの書き込みがあり、その中で「事務所には女玩(女児向け玩具の業界用語。フィギュアの類)が置かれていた」という話があって、以来、「ニョガン」という言葉が2ちゃんスレ住民の間で隠語化していく。またMorphy One自体も「漏貧」と当て字で呼ばれるように。

そして実機でDOSが動く動かないの話や、あれは画面偽装だという疑惑までも(ネット上の)大声で言われる始末の中、S氏から資金残金が300万にまで減っている、という事実が伝えられ、これには出資者、予約者、そして野次馬まで、一気にマジになり、言葉を失ったのだった。

当時の雰囲気を残すフラッシュがまだオンラインに残っている。これがそうだ。
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Sunnyvale/5500/toyo.swf
これまでの解説で、上のフラッシュでババンと出る「ニョガーン」や「残金三百万」の意味が、少しはおわかりいただけるだろうか。

さて、結論を言ってしまえば、Morphy Oneは完成しなかった。それにすらほど遠かった。
すでに資金の大半を使って部品は購入済みとなっており、それらを使ってどうこうできるレベルではなかった。
S氏はその後も、会計報告の貸借対照表の数字を(悪意はないが文系的な会計の知識がなかったため)勝手に改竄したりと、トンチンカンな対応を続け、結局、合資会社モルフィー企画と一緒に個人破産宣告を受ける。
残った部品は二束三文で買い取られ(買い取ってくれるだけでありがたいレベルだったと記憶している)、出資者はもちろん、予約者にもお金は戻らなかった。
結局、誰しもが得をしなかったプロジェクトとして、Morphy One騒動は幕を閉じたのであった。

     *     *

うむ。再度書いておくが、これらはわたしの記憶のみを頼りに書いた文章であり、細かいところは全然違っているかもしれない、と、念を押しておく。
それにしては、わりと自分でも覚えているものだなあ、と思ったり。なぜかというと、実は当時、Morphy One騒動のまとめWikiサイトがあり、わたしはけっこうそのページを作ったり編集していた一人のAnonymousだったのだ(笑)。
「秋葉原チムニーに奥座敷はない」などと、記事の細かいところまで訂正したりして、ね。
そのWikiがオンラインで残っていれば、当時の状況や混乱を今の人に伝えるいい資料になったのだが、いつの間にか消えてしまった。特に管理者のいないWikiの難点である。わたしもバックアップを取っていなかった(と思う。NASのどこかにある、かも)。

さて――
モルフィーワンがうまくいかなかったのは、S氏の過ぎた拙速主義や、実力の伴わないビッグマウスによって、ハード畑の人材が集まらなかった(ソフト面ではかなりすごい実力者が協力していた)など、いろいろ要因はあっただろうが、わたしは個人的に、モルフィーワンは、失敗を約束されたプロジェクトだったと思っている。

その分岐点は、やはり「合資会社モルフィー企画」を作ってしまった時点なのだ。100余名の出資者で合資会社を作るというアイデアを、S氏は裏技ウルトラCの閃きだと思ったようだが、文系的頭脳からすると、あれは、そんな莫迦なことをする者はいないだろうから禁じていないだけで、絶対にやってはいけないことだったのである。
理系の人々にわかりやすく言うなら、硫酸の瓶に「飲用不可」とわざわざラベルを貼らないでしょう? そんな感覚。

だから、かなり早い時点でモルフィーワンの失敗は決まっていた。わたしは、そう思っている。

もはや記録が残っていないので、わたしの一方的な印象論になってしまうのだが、S氏はモルフィーワンプロジェクトの中で、やたら文系を莫迦にし「これだから文系は理解できない」「文系は仕事が遅い」というような理系的感想を何度も述べていた記憶がある。

確かにS氏は純理系の人だった。だから妙にトンチンカンだったのだ。事務所の見学に「印鑑証明」が必要だったり(なぜ?)、貸借対照表の資産と負債の数字が同じなのはおかしいと書き換えてしまったり(どうして?)、聞いた話だが、役員報酬を受け取っていないなら個人破産はないと思っていたという話も聞く(なんで?)。

とても残念に思う。「会社」というのは、文系が作った文系のシステムで動いているのである。経理ってのは数字を扱うけれど、あれは文系でしょう? この勢いなら言える。2ちゃんのアイドル経理の智子さん、あなたも文系出身ですよねきっと。
それをS氏は理系的感覚で突っ走ってしまった。資金のほとんどを使って部品の大人買いなんていう博打は、まともな経理感覚があったらやらない。できないのである。文系なら。

文系がつくった文系のシステム、それにもっとS氏が敬意を払ってくれていれば、こういう幕引きにはならなかったのではないかな、と思う。
合資会社モルフィー企画には、社長はいたが、経営者はいなかった。これに尽きる。会社というものは、ゴーイングコンサーンが前提である。Morphy Oneができあがったら解散しよう、という当初の考えからして間違っていたのである。

本当は、会社組織になどする必要はなかったのだ。「モルフィー企画」という個人事業としてS氏が税務署に登録、税金関係は青色にし、出資者からのお金は「前受金」で処理すれば、少なくとも経理面においては、なにも問題なかったはずである。

わたしは、理系のセンスを持った文系という中途半端な人間なので、両方の感覚がわかる(こともある)。


(島本和彦「炎の転校生」7巻より引用)

なので、「これだから文系は」という理系の方には、一言、ご忠告申しあげておきたい。会社だけでなく、社会というものは、文系がつくった文系のシステムで動いている。それに相応の敬意を払っていただきたい、と。

理系の人間から見ると、文系は莫迦かもしれない。しかし文系の人間から見ると、理系の人間は利口ではないのだ。
この感覚がわかるなら、あなたは理系でも文系でもきっと大丈夫。大丈夫じゃないかな? うーん、わかんない。まぁいいや。俺、文系だし。



S氏のその後を、ネットではもう見つけることはできない。ネットがこれだけ進化している時代に、ひたすら沈黙を守られているのは、さぞやお辛いことだろう。
モルフィーワンは失敗してしまったが、S氏自身は、もう十二分にその咎を受けたと個人的には思う。多くの出資者、予約者に金銭的迷惑をかけてしまった以上、表舞台に顔を出せないというお気持ちはわかる。まだお怒りの出資者や予約者もいらっしゃるのかもしれない。そういうことについては、当時、ただの野次馬だったわたしに何かを語る権利は一片もない。

ただ、S氏が今も、どこかで元気でお過ごしになられていることを祈るばかりである。
posted by 結城恭介 at 08:00| 回想録