2017年07月12日

【書評】成程

 平方イコルスン「成程」

 不思議と年に一度くらい読み返したくなる本、マンガというものがあって、わたしにとって、ここ数年は平方イコルスン先生の「成程」がその一冊である。



 なんとも、不思議な魅力を持った一冊である。
 ストーリー的には、「不条理モノ」になるのであろうか。深いようでそうでもないのかもしれないし、いや浅いようでけっこう深いのかもしれない、と、読んでいて、なにか、心理的なエッジ上を歩かされているような(しかもそのエッジがなまっているのか研がれているのかわからない)、不安でありながらも「行ける!」と思えてしまうような、不思議な感覚を覚える。

 絵はけっこう癖があるのだが、読み進んでいくうちに、キャラクターたちが可愛らしく思えてきたら、もう平方先生の手中にハマっているのである。
 なんだ、この甘いピンクのヘビが頭の中でのたうつような感覚は――そうだ、これは「萌え」だ。不条理な「萌え」である。

 とにかく一話一話に、とても伝えにくい魅力が滲み出している。
 特に秀逸なのは、「とっておきの脇差」と「むずかしい」の二話。

●とっておきの脇差

 高速を走っている車の中で、女の子が「忘れたー」と叫ぶ。忘れたというのは、なんと「くさりがま」(なぜ!?)。前のパーキングのトイレに置き忘れたという。



 隣のパーキングは大きいから「くさりがま」を売っているかも(えっ!?)。と入ってみるが、売っているのは「くない」だけ(なんで「くない」は売ってるの!?)。



 ヒロインは友人から、「脇差」と「円月輪(チャクラム)」を借りることにする。



 ここで、どうやら彼女は「決闘に向かうらしい」という雰囲気がやっとわかる。しかし車内はのんびりとしたのもので、みな、決闘が終わったら温泉へ行く話などで盛り上がっている(!?)。

 そして決闘の場はどこかの野原である。相手はカップル。決闘相手は「長刀」(!?)を持っていて、そばにいるのは男である。どうやらこの男を巡ってのトラブルで決闘になったらしい。

 そして決闘は――



 友人たちがヒロインを土に埋めているようなシーンが続き、どうやら彼女は負けてしまったらしい。
 決闘場を後にする友人二人。「一応連絡しておいたって」「してるよー、メールやけど」というのは、ヒロインの家族に連絡をしているのだろうか。「髪は?」「うしろ、トランク」というのは遺髪だろう。
 なんなんだろう、この軽い感覚! 軽い、軽すぎる!?



 勝てば三人で入るはずだった温泉に二人で行く友人。「予約のあれなんですけど、二人の方で」「あー、ご愁傷様ですー」。

 そして部屋につき、二人は涙を流すこともなく、決闘相手のカップルが、今頃どうしているかと猥談に話を咲かす。Fin。

 なんとも、得も言われぬ読後感である。読者として、取り残されないようにするのが大変なほどだ。

●むずかしい

 こちらは4ページの短編である。どうやら、これから死ぬ友人のために、未来からタイムスリップしてきた二人の話らしい。
 しかしこの友人二人がまた軽い。使命感を持っているようで持っていないようで、ファミレスでどうしようか相談を始める。



 歴史が改変されてしまうのではないかとか、むしろ自分たちが友人が死ぬ引き金をつくってしまうのではないか、などと、軽い調子で悩む二人。
 悩みに悩んで、結局結論は出ず、ファミレスで寝て追い出される二人。
 ホテルに部屋を取るが、そこで――



 一人が、これから友人(相田と初めて名がでる)が死ぬことに泣き出し、もう一人も貰い泣きしながら「あたしひとりやったら絶対泣いてないのに!」と思っている。Fin。

 やっとなにか、ちょっと読者に着地点をつくってくれたようなこの短編が、本書のラストとなる。

 とにかく全編、不条理でありながら軽く、そして微妙な萌え。一切トーンを使わず、台詞も書き文字である本作の作風に、読者としては得手不得手はあるかもしれないが、ハマる人はハマる! と断言できる一冊である。
 この不思議な感覚を、一人でも多くの方にお伝えしたい!
posted by 結城恭介 at 08:00| 書評・映画評