2017年07月29日

【日記】平和の接吻を交わしましょう(ぇ

 カナダの聖フランシスコザビエル大学の研究チームが、5月に学術誌「Psychology & Sexuality」で発表した研究は興味深い。

 18歳から45歳の異性愛者の男性120名に、スライドショーで画像を見せ、唾液からストレスレベルをチェックしたのだという。
 流された画像は、文房具などのありふれたもの、男性同士のキス、男性同士の握手、男女カップルのキス、握手、そしてウジ虫や腐った魚など普通に考えて嫌悪を催すものも混ざっていた。
 唾液中のαアミラーゼの値がストレスレベルを反映するものとされ、それによって、画像を見たときのストレスレベルがわかるというものだ。

 実験結果は興味深いものだった。男性同士のキスの画像を見たときの画像と、ウジ虫などの画像を見たときのストレスレベルが同様に高い値を出していた、というのだ。

 この実験結果の考察は社会学者や心理学者に譲るとして、キスつまり接吻はキリスト信者には身近なものである。
 一番有名なのは、イスカリオテのユダがイエスを裏切ったときである。

イエスを裏切ろうとしていたユダは、「わたしが接吻するのが、その人だ。それを捕まえろ」と、前もって合図を決めていた。ユダはすぐイエスに近寄り、「先生、こんばんは」と言って接吻した。(マタイによる福音書 26:48-49)


 かといって、聖書の中でキスがいつもいつもマイナスイメージで語られているわけではない。旧約の中では、友人同士の歓迎の形として、ありふれた状況で出てくる。「接吻」ではなく「口づけ」と訳されている箇所の方が多い。

エサウは走って来てヤコブを迎え、抱き締め、首を抱えて口づけし、共に泣いた。(創世記 33:4)
ヨセフは兄弟たち皆に口づけし、彼らを抱いて泣いた。その後、兄弟たちはヨセフと語り合った。(創世記 45:15)
ヨアブはアマサに、「兄弟、無事か」と声をかけ、口づけしようと右手でアマサのひげをつかんだ。(サムエル記下 20:9)



(田亀源五郎「ウィルトゥース」より引用)

 新約にももちろんある。

すべての兄弟たちに、聖なる口づけによって挨拶をしなさい。(テサロニケの信徒への手紙一 5:26)



(田亀源五郎「雪原渺々」より引用)

 聖書の舞台となっているパレスチナの荒れ野では、男同士の接吻も嫌なものではなかったらしい。男同士でチュッチュしまくりである。今、わたしの唾液中のαアミラーゼは恐らく上昇中である。これは面白い研究テーマであるので、そのうち、ちょっと掘り下げて調べてみたい。

 さて、現代に戻ると、カトリックのミサの中には「平和の挨拶」という儀式がある。
「主の祈り」を唱えたあと――

司祭「主の平和がみなさんとともに」
会衆「また司祭とともに」
司祭「互いに平和の挨拶をかわしましょう」


 と、呼応の後、「平和の挨拶」を交わすのである。日本の場合、親指を組み合わせたカトリックの合掌をして、周囲の人にぐるりと「主の平和」「主の平和」「主の平和」と頭を下げた挨拶をして体を回す。
 これにはお国柄があって、メキシコからカトリック青年団がきたときは、お互いにハグや握手をしまくっていた。

 この「平和の挨拶」の大元が「平和の接吻」だったという話がある。
 初期キリスト教会の頃は、接吻は友情、親愛を示す行為として普通だったのである。
 ただ、今のミサのような形で、皆が「主の平和(chu!)」「主の平和(chu!)」とはやらなかったようで、1970年頃までは司祭がひとりで唱えていたという話もある。

 そのあたりの歴史は、もうちょっと深く調べてみる必要があるが、この「平和の挨拶」が皆で行われるようになったのは教皇パウロ6世の勧めの後からくらいのようだ。

 いやはや、正直なところ「主の平和(chu!)」「主の平和(chu!)」は一般的日本人の常識的に考えて勘弁というところがあるから、今の合掌でまわりにぐるりという挨拶の形はありがたい。
 ただ、個人的には正直なところ、現在の「平和の挨拶」は、ミサの中で「一番美しくないなぁ」と思うプロシジャであるのも確かである。


(中村春菊「純情ロマンチカ」16巻より引用。美青年同士ならαアミラーゼも上がらない!?)

 もし「主の平和(chu!)」が世界共通のミサ様式であったら、日本のカトリック人口はさらに減っていたことだろう(笑)。

 冒頭に戻って、カナダ・聖フランシスコザビエル大学の研究成果は面白いなあ、と思う。おそらく接吻が日本よりもフツーの地ではあろうに、それでも男同士のchu!が異性愛者には嫌悪感をもたらす行為であるというのは、LGBTへの差別解消は、けっこう力づくで行わなければ解決しないのかもしれないな、と感じるところだ。

「ああ、神さま、この唇は、彼と出会うために生まれてきたのですね♥」
 というわけで、この記事は「さくらんぼキッス〜爆発だもーん」をBGMに書いたのであった。ん〜、chu!
posted by 結城恭介 at 08:00| 日記