2017年09月18日

【回想録】睡眠相後退症候群

 作家として仕事を始めた若い頃のわたしは、完全にコレであった。睡眠相の障害のひとつだが、もうちょっと詳しく言うと「非24時間睡眠覚醒症候群」である。

 この「症候群」の症状はというと、毎日、眠りにつく時間が一時間ずつ遅れていくのである。
 会社勤めでもしていれば、無理矢理にでも朝何時に起きる、ということをしなければいけないが、フリーランスだとそのあたりは緩い。自然、起きる時間が遅れていく。そういう病。

 具体的に言うと、月の初めは夜23時に寝て朝7時に起きられていたのが、一週間後には朝5時に寝て昼13時に起きるようになってしまう。さらに一週間後、昼12時に寝て夜8時に起きる。次の一週間後は、夜7時に寝て深夜3時に起床……。このグルグルの繰り返しなのである。

 だったら目覚ましをかけて、無理にでも定時に起きなさいよ! と言いたいところだが、それだと今度は睡眠不足がつらい。執筆は寝る直前まで行っていることが多く、自然、頭が興奮状態になっているので、わたしは寝付きがひじょうに悪い(これは今もそう)。
 朝、無理に起きても頭が働かないし、だったら睡眠も八時間たっぷりとって――ということになってしまう。



 当時は「睡眠相後退症候群」「非24時間睡眠覚醒症候群」などというご大層な病名は一般には知られておらず、通称「ただの怠け者」であった。
 ある専門書で、この病名を見つけたときは狂喜したものだ。「俺は怠け者じゃなかった。病気だったんだ!」と。

 しかし治療法には「定時に起きて陽の光を浴びること」と記されていてショボーンである。それができないからこの病気に陥っているんだって!

 しかし病名がわかったことは嬉しく(怠け者ではないという言い訳がたつし)、当時、実日の雑誌のコラムに「わたしの持病」というタイトルで雑文を書いたことを思い出す。
 齢50を過ぎて、持病なんてお釣りがくるほど持っている今のわたしからすると、「非24時間睡眠覚醒症候群」くらいで「持病」と書ける若いわたしがうらやましい。

 人間の体内時計というものは、実は25時間周期なのだと聞いたことがある。陽の光の届かない人工環境下で人を生活させると、やはり上記「非24時間睡眠覚醒症候群」のように、日常が一時間ずつ遅れていくのだそうだ。
 この病は、夏より冬の方が悪化しやすい。夏は雨戸を開けて生活できるので、朝になると陽の光が自然に入ってくるからである。

 この病気の真っ最中のときは、昼間の打ち合わせにタイミングを合わせるのに難儀した。原稿渡しでもなく、ただの顔合わせでも完徹状態で向かわなければいけないときもあり、そんなときは、寝不足で相手に不機嫌そうな顔を見せないよう気も遣って、帰るとヘトヘトなのであった。

 そんなこんなで、わたしの青年期を苦しめたこの「非24時間睡眠覚醒症候群」だったが、結婚して家庭を持つと、意識せず、自然と治っていった。ちょうどパソコン通信を始めた頃でもあり、むしろ、睡眠相がグルグル回るのではなく、昼寝て、夜起きる「夜型」に固定されたような感じである。

 今は主治医の先生に睡眠の指導をされているので、昔よりはかなりマシな睡眠相である。夜寝て(ただし寝付きは悪い)、朝起きている。

 ところで細君は寝付きがとてもいい人。3DSを持ったま、あるいはスマホを持ったまま寝落ちしていることも珍しくないくらい。毎日、寝付きに苦労している自分としては、本当にうらやましい。
 だから眠れない夜は、たまに熟睡している細君の鼻でもつまんで嫌がらせ初歩の愛情表現をしてやりたくなるのである。
posted by 結城恭介 at 08:00| 回想録