2017年10月05日

【日記】ライターズブロック

 なんだか、仮面ライダーの攻撃を防御する必殺技のような単語だが、オンドゥル語ではない。
 文章を書くライターが、ワープロに向かっても、なにも書けない状態をさす言葉として、ここ十数年くらいで使われるようになった言葉である。
 対になる言葉として、何かを書いていないと落ち着かないという「ハイパーグラフィア」というものがあるが、こちらは前述「ライターズブロック」よりは一般的な言葉にならなかったようだ。



 わたしがこの言葉を知ったのはアリス・W・フラハティ著/吉田利子訳の「書きたがる脳――言語と創造性の科学」からであった。日本語訳初版は2006年だから11年前だ。
 それまでは、ライターがワープロを前にして、何も書けない状態は「スランプ」と言った。ちなみに、作家が原稿用紙を前にして何も書けない状態は「サボり」と言われた(笑)。

「サボり」から「スランプ」になり二十一世紀には「ライターズブロック」というきちんとした名称がついたのだから、「書けない状態」も大したものである。


(稲田浩司「ドラゴンクエスト―ダイの大冒険―」22巻より引用。この速さなら言える。「…今のはサボりではない…ライターズブロックだ…」)

 対する「ハイパーグラフィア」の方だが、こちらは脈絡なくとにかく書きまくる、描きまくる、といった病である。残念ながら、作品を多産できる作家というような良い意味には使われない。
 状態としては、たとえば長電話中、手持ちぶさたで手元のメモ帳にいろいろ書いてしまうような、そんな感じを連想すればいいのだろう。

 今は良い時代である。「ライターズブロックでして……」で通用してしまうのだから。
「サボり」と言われた時代には、それはいろんな言い訳を使ったものである。その中で編集者に通用したもの、しなかったものをいくつかピックアップしてみると――

●「暑くて」

 シンプルイズベスト!
 その夏は猛暑。打ち合わせに使っていた喫茶店の主人にこだわりがあり、冷房を入れない店だった。きっと編集者の頭もそれで茹だってしまったに違いない。「こんなに暑ければ仕方ないですよねぇ」で納得してくれた。おそらく冷房の効いた編集部に戻って、騙されたと思ったに違いない。

●「オウム事件で忙しくて」

 世間がオウムでいろいろ騒がしかった頃。別にわたしはオウム事件のルポライターでもなんでもなかったので「先生には関係ないでしょう?」と冷たく言われてショボン。

●「書いてる内容に合ういい曲が見つからなくて」

 これがよく通用したものだと思うが、わたしが常になにか音楽を聞きながらでないと書けないということを知っている編集者は妙に納得してくれて、その後、いくつかストーリーに合いそうな曲までリストアップしてくれた。

●「ノートPCが壊れまして」

 ノートPCが壊れたのは本当。HDDが飛んだのであった。バックアップは取ってあったが、まあまあ慌てたのも本当。しかし編集者は「そんなの理由になりませんよ」と許してくれなかった。
 ところがその後、社に戻ってから他の編集者に、PCに依存して書いている作家にとってPC故障は致命的ということを聞いたのか、「申し訳ありませんでした。大変なことだったんですね」と謝りのお電話が。こちらの方が恐縮してしまった。だってバックアップあったし、代替機もあったんだもん……ゴメンナサイ。

●「寝ないでがんばったんですが……」

 これは許してくれた。その編集者のポリシーに「人間、十分な睡眠をとらないといい仕事ができない」というものがあったらしい。「むしろちゃんと寝てください」と言われた。まっとうな人である。

●「細君の相手をしなくちゃいけなくて」

 結婚すれば、家と家とのおつきあいもありますわな。そういう意味で言ったのだが、「まぁ、いやらしい♥(フフッ」と一蹴された(笑)。

●「ほ、仏の顔も三度までと申します」

 二回までは許してくれた。
 今思うと「イエスは言われた。『あなたに言っておく。七回どころか七の七十倍までも赦しなさい。(マタイによる福音書 18:22)』」と言えばよかったのだ。やキ天。

 そんなこんなで、モノカキが書けない状態が「ライターズブロック」ならぬ「スランプ」ならぬ「サボり」と見なされていた時代、いろいろ修羅場をくぐり抜けてきたわたしが、今こうして、毎日欠かさずブログを更新できているというのは奇跡に近いのである。
 神の憐れみに感謝!

 いや実はこの記事も「ライターズブロック」の状態で、とにかく書き始めたら、なんとかなっちゃったんですけど、ね。
posted by 結城恭介 at 08:00| 日記