2018年02月17日

【書評】コンビニコーヒーは、なぜ高級ホテルより美味いのか

 川島良彰「コンビニコーヒーは、なぜ高級ホテルより美味いのか」



 実は、今、出先なので実書が手元にない。のに、なぜこの書評を書きたいと思ったかというと、今いるのがネットカフェで、そこで一杯淹れた「スペシャリティコーヒー」が、まぁまぁこういうところでは美味いかな、と感じ、この本のことを思い出したから。

 実は川島良彰先生には(勝手に)あまりいい印象がなかった。というのも、ビッグコミックスピリッツで連載されていた「僕はコーヒーがのめない」というマンガの監修を先生がなさっており、同マンガの自分的評価が、実に、その、あの、アレだったからなのである。
 一回は打ちきられたかと思っていたら、今調べたら、最終7巻まで出ているとのこと。慶賀慶賀。今、せっかくネットカフェにいるのだから、と、店内検索機で調べてみたら、この店には置いていない。ガックリだ。

「僕はコーヒーが――」の(わたしが感じる)失敗は、美味しんぼにあるようなバトル展開に無理に持ち込もうとし、しかもその展開に工夫がない、という点にあったのだと感じている。


(原作:福田幸江/作画:吉城モカ/監修:川島良彰「僕はコーヒーがのめない」1巻より引用)

 これはわたしが2ちゃんに書いたものだが――

このマンガ
主人公「このゲイシャは欠点豆が多くてダメです……。ハンドソーティングしないと……。云々……」
一同「ふーん、そういうもんなのね」

これが美味しんぼなら
山岡「このゲイシャはダメですね。俺がそこのカルディで買ってきた豆でもっと美味いコーヒーを淹れてあげますよ」
(山岡がキッチンにこもって一時間後)
一同「確かに山岡のコーヒーのほうがうまい」
同僚「くっ……悔しいが確かに俺のゲイシャより味が清々としている」
くり子「マイルドカルディ豆なのになぜ?」
山岡「ハンドソーティングの差さ」

美味しんぼがいいとは言わんけど、もっとドラマで読ませてほしいな。マンガなんだから。


 という感じなのであった(なお同じIDで検索するとIDかぶりでいくつか出てくるが、わたしが書いたのは上のカキコだけなのでよろすく)。
 ちなみにストーリー展開は川島先生がなされているのではなく、あくまで監修。
 その後、川島先生の上書「コンビニコーヒーは、なぜ――」を読む機会があり、読み始めたら実に面白い。なによりこの本は川島先生の自伝でもある。

 川島先生はコーヒー焙煎業者の家に生まれ、小学6年のとき、東京のブラジル大使館に「ブラジルでコーヒーの仕事をしたい」と手紙を出すほどコーヒーへの情熱が溢れる熱血漢。その後、中米エルサルバドルの大学に留学し、国立コーヒー研究所に入所。
 エルサルバドルで内戦勃発後も、爆発の音を聞きながらコーヒー研究を続け、ついに邦人の帰国がやむなくなり、請われてUCC上島コーヒーに入社。その後、ジャマイカ、ハワイ、インドネシアなどでコーヒー農園の開発に積極的に関わる。
 そして、自分が満足できる最高のコーヒーをお客さまに提供するため、UCC上島コーヒーを退社し、株式会社ミカフェートを設立。
 今日もまた「すべてはコーヒーのために」を合言葉に、コーヒーハンターのふたつ名を掲げ、旅を続けていらっしゃる。

「僕はコーヒーが――」も、妙な物語にしないで、川島先生の自伝マンガにしてしまった方が良かったのではないだろうか。

 本書はそのタイトルからしていい。「コンビニコーヒーは、なぜ高級ホテルより美味いのか」。そうそう、とうなずいてしまう。
 わたしは基本、味のわからない味覚音痴だが、ホテルのコーヒーを美味いと思ったことがない。ここ数年は高いだけで美味くないので、もったいなくて飲まないようにすらしていた。
 コンビニコーヒーは安いけれど美味い。コーヒーは美味さ以前に、「飲むシチュエーションが大事」というこは、以前「【回想録】コーヒーの思い出」にも書いたが、それを抜きにしても、やはり「高級店のコーヒーの方が美味く、大衆店の方がまずい」ということはないように思っていた。
 それをコーヒーハンター≠ナある川島先生が、こうやって一発で喝破してくれるのだから心地よい。

 同書を読むと、一度、最高に美味いという川島先生のお店で出している「グラン・クリュ・カフェ」を飲みたくなる。味音痴のわたしでも魂を抜かれるほど美味いのであろうか。

 以前、コピ・ルアクが話題だった頃、お土産で粉をいただいたことがあるのだが、それはロブスタ種で、しかも豆ではなくすでに細挽きしたもので、正直、ドリップしても美味いものではなかった。わたしは別にコーヒーに特段詳しいわけではないが、知らない方は「珍しいだけで良い」と思うのだなあ、と思わされた一件であった。



 この写真はアラビカ種のコピ・ルアクの豆。である。こちらの味はまあまあ。裏を見ると、コーヒープレスで淹れることが推奨されている。サイフォンで淹れちゃうけど。
「味音痴」と言いつつ、コーヒーの味にこだわっている自分がおかしいが、それだけ身近な飲み物だということだ。

 川島先生のコーヒーに対する妥協のなさと同時に、コーヒーを高級飲料として目指さず、値段相応であってもその枠内で最高に美味いものがつくれるはず、という柔軟な姿勢に共感した一冊。
 コーヒー好きは、ぜひご一読を。
posted by 結城恭介 at 08:00| 書評・映画評