2018年04月14日

【日記】部下が殺人を犯したときのお詫び状

 あれは昭和の頃、図書館をぶらついていて、なんの気なしに「手紙文例集」を手に取り、パラパラとページをめくっていて、ブッ飛んだことがある。
 それが%title%の「部下が殺人を犯したときのお詫び状」なのであった。
 あまりに衝撃的な文例だったので、頭のネジがすぽぽーんと何本か抜けてしまい、中身を覚えていないくらいである。今思うと、あれをコピーしておかなかったのは本当に残念だ。

 しかし内容は、タイトルに比し、けっこうまともだったという印象が残っている。

 このたびは、弊社の従業員であり、かつ、わたしの部下である○○が、新聞の報道でありましたとおり、人を殺傷したという容疑で逮捕されました。
 現在、警察の捜査中であり、詳細はまだ明らかになっておりませんが、○○の処遇におきましては、○月○日付けで懲戒免職が決定しております。
 弊社におきましては、今回のことに省み、よりいっそうの人事粛正を行っていく所存でおります。
 貴社(△△様)と○○が進めておりました懸案に関しましては、早急にわたしがおうかがいして、今後のことを検討したいと願っております。
 このたびはご迷惑およびご心配をおかけしてしまい、まことにもうしわけございませんでした。


 こんな感じ。「末筆ながら貴社の益々のご繁栄を――」はなかったと思う。

 あまりにこの文例集のコレが面白かったので、その後、編集者に会うたびに話題にしていたりした。
 今回、この記事を書くに当たって、同じ図書館へ行き、古い手紙文例集をかたっぱしから探してみたのだが、その本はもちろん、「部下が殺人を犯したときのお詫び状」が載っている新しい文例集もなかった。残念である。

 果たして、この文例集のコレが役に立った人がいたのだろうか。まあ、殺人とまではいかなくても部下が犯罪関係に手を染めたあたりでは文例をちょっと変えて役に立つケースがあったかもしれない。

 コレがあまりにインパクトがあったもので、「決定版・手紙文例集」という小説を考えたことがあった。

「家族がUFOにさらわれなにかを埋め込まれたときのお詫び状」
「記憶を失った恋人が実はCIAのエージェントだったときのお詫び状」
「教祖が実は神ではなかったときのお詫び状」
「自分以外の誰しもが実は宇宙人と入れ替わっていたときのお詫び状」
「大切なお皿十枚のうち一枚を割ってしまったときのお詫び状」
「自分の記憶がなにものかに改変されたときのお詫び状」
 エトセトラ、エトセトラ……。

 ところがこれ、お詫び状本体が、書いても書いても、全然面白くならないのである。それは冒頭に書いた「部下が殺人――」をお読みいただければおわかりいただけると思う。
 結局、どれだけ異常な出来事も、詫び状という日常にコンバージョンしてコンデンスすると、日常の方が強くなってしまうのだなぁ、と思ったりしたものだった。

 というわけで、結局「出落ち」という顛末。
「事実は小説より奇なり」が普通となってしまった二十一世紀では、もう「部下が殺人を――」も、それほどインパクトはない、かも?
posted by 結城恭介 at 08:00| 日記