2016年11月24日

【日記】ひとつの技術だけで起業すると

この不況の中、非正規雇用問題が解決もされず、さらにはブラック企業・ブラックバイトが珍しくない昨今、「起業」というのは若い人にとって魅力的な選択肢のひとつではあるらしい。

わたしは18のときから、モノカキで個人事業を始め、30代後半で法人成りさせた。
法人事業の方の定款はコンピュータ関係の何でも屋的な仕事、いわゆる「コンサルタント」ではあるが、まあ今まで、倒産も個人破産も自殺もせずやってこれているので、悪い方ではないと思う(良い方とも言いかねるのが残念だが)。

なので「意識低い系」ではあるが、起業の先輩としてなにかヒントを伝えられれば、と、思って、筆を執っている。

2ちゃんねるの創始者、西村ひろゆきさんがおっしゃっているとおり、現代ではプログラミングができれば飯の種には困らない、というのは、当たらずといえども遠からず、だと思う。

逆に言えば、アプリケーションレベルでしかコンピュータを扱えないユーザーがIT関係で起業するのは、ちょっと心もとないのではという気がする。

自分はプロデューサー、ディレクターの立場になりたい。大事なのはアイデアで、実際にキーを打ってなにかを作る作業は人を雇ってコーディングしてもらえばよいのだから――などと考えているタイプが一番危険だ。

たとえばスタバでMACを広げて企画書をドヤリングしているタイプの方。今のコンピュータ界ではWindowsも当然のように使えないとお話しになりませんよ。

さて、ここからはわたしの失敗譚と、それから得られた教訓を。

2010年頃だろうか、Webで使える、全天周パノラマ写真という技術が生まれた。
フラッシュで動かすもので、ただのパノラマ写真ではなく、マウスでぐるぐると視界を動かすことができるという、当時、それは画期的な代物であった。

これは面白い! と思い、わたしはさっそく自分でもテストしてみて、うちのWebサイト構築事業のウリのひとつになるかも、と、導入を決めたのだった。

当時、全天周パノラマ写真を実現するには、優れたデジタル一眼レフカメラ、円周魚眼レンズ、良い三脚、パノラマ写真専用の回転雲台、そしてパノラマ化ソフト、それを全天周化するソフトが必要だった。

回転雲台はノーダルニンジャという製品を海外から購入した。ソフトも二本とも海外産である。それは確かPaypalで購入。
総費用は、カメラを抜いて数十万したのではなかったかな。

なにしろ、全天周パノラマ写真は出始めで、みな、いろいろ手探りでやっている時代であった。PhotoShopなども当然のように駆使できないと良いものはつくれなかった。

ウェブサーフなどをして情報を集めていると、地方でもこの技術に目をつけて機材一式取り揃え、出張撮影いたします、と、起業している方々もちらほら見られた。

まあ技術が特殊なだけに、地域がかぶらなければライバルにはならないだろう、とは考えていたが、この技術だけで起業とは、思い切ったことをするなあ、と感心はしていた。

講習会などを開いて、技術を暖簾分けのようにしていた企業もあった。

それが、である……。
2013年にRICOHが「THETA」という製品をいきなり発売したのであった。ご存知の方はご存知だと思うが、なんと、一台で簡単に全天周パノラマ写真を捕れるというデジカメである。

つくれる全天周パノラマ写真の精緻さでは、もちろん旧来の方法の方が格段に美しいのだが、こうやって簡単に撮影できてしまうデバイスが発売されてしまうと、もはや業者の側はユニークさをウリにできなくなってしまう。

なにしろ、業者に数枚の全天周パノラマ写真を頼む値段でTHETAを買えてしまうのだから、ライトな層はもう業者を相手にしないだろう。

ウチとしては、たとえば家を新築するとき、古い家の中の各箇所を思い出として全天周パノラマ写真にして残しておきませんか? などの営業を出すつもりだったのだが、もうこれを単体でのウリにすることは諦めた。

案の定、この技術だけで起業していたページは、今は軒並みクローズしている。

得られた教訓として、ひとつの技術、ひとつのアイデア、ひとつのゲームだけで起業すると、大会社にある日突然、こうやってひっくり返される危険性がある、ということ。

小さい会社は、こういうとき、フットワークよく別の事業に即行で取り組めないとすぐに潰れてしまうのだ。
これが「意識低い系」の所以である。

マンガでもよくあるでしょう? 最初は純粋なスポーツ物だったのが、だんだんと超能力バトルになっていく、スケスケだぜ、みたいな。

とにかく「生き残る」には、意識を低くしていくことが肝要だ。

「多くの人と会って人脈を広げるのが楽しい」などという綺麗事を言う人は、個人事業、法人運営の中で、その多くの人に頭を下げ、土下座までして足で頭を踏みつけられても、なにかをお願いする覚悟があるだろうか。

新設法人の3年後の生存率は10パーセントとも言われている。

澄ました顔で取材を受けて、ポートレートで「ろくろを回している」若きITの成功者たちも、事業を長く続けているということは、あるときには土下座し、あるときは人の靴をなめるような屈辱を味わい、意識を低くしながら闘ってきているのである。

起業するというのは、そういうことだ。「ブラック企業」ならぬ「ブラック起業」は当たり前、なのである。
posted by 結城恭介 at 08:00| 日記