2017年07月31日

【回想録】漢字含有率

 小説家となって、活字が誌面に載るようになってから、真綿のようにわたしの首にまとわりついて締めてくる、ひとつの呪縛があった。

「漢字含有率」

 である。

 中間小説誌の中で、わたしが書いた部分だけが、黒っぽいのである。なぜなら、漢字が多いから。

 ワープロで書いていたからではない。初期作品は万年筆と原稿用紙で書いていた。むしろ、その頃の方が誌面は黒かったかもしれない。
 パラパラとめくって大御所の活字を遠めに眺めたりして、「手練れの文章書きは漢字を多く書かないのだなぁ」という印象をもった。それでいて読みやすい。それこそがプロのプロたるゆえんである、と、感服したり。

 それ以来ずっと、小説の漢字含有率については、いつも頭に片隅にあった。
 実際、どのくらいが適切なのかを、数字を持って調べたこともあった。

 ワープロ時代に入り、自分はプログラマでもある。その手のプログラムを書いて、自分の作品の漢字含有率を算出してみた。
 いくつかの作品の数字をここに転記してみる。

「花のジャンスカ同盟」
 これはジュブナイル。読者層は低目を想定。
》102683 文字中 21681 文字の漢字を発見
》漢字含有率は 21.11 %
》1346 文字の常用漢字外漢字を発見


「奴の名はゴールド」
 これもジュブナイル。でも読者層は少し高めを想定。
》116908 文字中 25488 文字の漢字を発見
》漢字含有率は 21.80 %
》1929 文字の常用漢字外漢字を発見


「ヴァージンナイト・オルレアン3」
 今でいう「ラノベ」になるだろうか。読者層は少し高めを想定。
》101469 文字中 23909 文字の漢字を発見
》漢字含有率は 23.56 %
》985 文字の常用漢字外漢字を発見


「コール」
 ミステリである。読者層は高目を想定。
》173683 文字中 44592 文字の漢字を発見
》漢字含有率は 25.67 %
》1564 文字の常用漢字外漢字を発見


 漢字含有率25パーセントとなると、かなり「誌面が黒い」状態かもしれない。
 思い切って、「活字降る都(朝刊暮死)」ではかなり漢字を開き(ひらがなにし)、22パーセント以下を目指してみた。
 結果――

》143349 文字中 30675 文字の漢字を発見
》漢字含有率は 21.40 %
》264 文字の常用漢字外漢字を発見


 この作品では誌面の活字充填率も算出してみた。

》143378 文字 で 8144 行
》【23 文字 × 18 行】換算で 452 枚 8 行
》文字充填率は 76.55 %

》143378 文字 で 9061 行
》【20 文字 × 20 行】換算で 453 枚 1 行
》文字充填率は 79.12 %


 このときは、むしろ漢字を開きすぎて、明らかに対象読者層にしては読書経験が浅く語彙数の少ない読者に「読みにくい」と評され、やりすぎたなぁとショックを受けた。

 ごいすうのすくないどくしゃはひらがなをおおくするとどこからどこまでがたんごなのかがわからないのでむしろこういうぶんしょうはよみにくくなるのである。

 上の段は極端な例だが、語彙数が貧困な読者はむしろ漢字を多めに入れてやらないと、「ひらがな→漢字変換」が脳の中で働かないので読みにくくなるのだということを知った。漢字で書いてあれば、だいたいの意味が(読めなくとも、知らなくとも)想像で補えるが、ひらがなだとそれができない。それが、その読者が「読みにくかった」原因だろうと思われる。

 今のラノベなどは、ざっと見た感じだと漢字含有率20パーセント以下、文字充填率は50パーセント以下くらいではないだろうか。
 この数字を低くしつつ読みやすく書くのはなかなか莫迦にできない匠の技なのである。これホント。書きなれていないとできないプロの技。

 しかし、最近のわたしはもう、歳もとったことだし、あまり漢字含有率や誌面の文字充填率などを気にしなくなった。多少、漢字マシマシなのが自分の文章である、と割り切っている。

 ちなみに、2016/06/13に始めたこのブログ、2017/06/12までの一年間のデータを数字にしてみると

》748823 文字中 174346 文字の漢字を発見
》漢字含有率は 23.28 %
》3726 文字の常用漢字外漢字を発見


 である。
 まあまあ、いい数字ではないかな、と思っている。
posted by 結城恭介 at 08:00| 回想録