2017年08月30日

【映画評】ベイビー・ドライバー

 佳作なのに上映館が少ないのはもったいない。カー・アクションのドンパチ映画かと思っていたら、これは素敵な青春映画である。


(完全にノーマークだったのでチラシももらっていなかった……)

 ストーリーはけっこうストレートな映画なので、ネタバレらしいネタバレはしないと思うが、そういう事前情報を頭に入れるのがお嫌な方は、あらすじのうちに別ページへ移動していただきたく。

 あらすじ――主人公の通称ベイビー≠ヘまだ幼さの残る青年だが、ひとたびハンドルを握れば天才的なドライバー。子どもの頃に経験した自動車事故の後遺症で耳鳴りがやまず、それを止めるため、いつもアイポッドで音楽を聞いている。
 両親をその事故で亡くした彼は、養父とともに暮らしているが、養父も耳が聞こえず、二人は手話で会話している。互いに相手を思いやり仲も良い。そして養父は、ベイビーの仕事≠フことを心配している。
 そう、仕事=Bベイビーは謎の犯罪組織のボスドク≠ノ見込まれて、銀行強盗や現金輸送車強盗の一員として、その天才的なドライビングテクニックを用いて逃がし屋≠やらされていたのだ。
 ドクに課された借金も返し終わり、ベイビーに平穏な時が訪れたように見えた。母がかつて勤めていたレストランで知りあったウェイトレスとも仲良くなり、ピザの宅配という新しい仕事を見つけ、これから明るい未来が開けていると思っていた彼だったが――


「カー・アクションではなく青春映画」と冒頭に書いたが、もちろん、カー・アクションは凄いの一言である。自由自在にクルマを操り、接触することもなく狭い隙間を猛スピードですり抜けていくベイビーの技は、クルマにダンスを踊らせているかのごとく気持ちよい。

 こういう設定ではあるが、ベイビーは決して人間味を失った、犯罪者じみた青年ではない。むしろそれとは正反対。ウェイトレスのデボラに恋をしてどぎまぎしたり、幼い頃の事故の記憶に悩まされたり、義父の心配をしたり、また、逃走中でも同乗者が他人を射殺しようとするのを止めたりする。根は素直で善人なのだ(とはいえ、ドクにその腕を見込まれたのは、彼のクルマを盗んだから、というのが発端だったのだが)。

 犯罪組織のボスであるドクは、ベイビーの腕を見込み、やはり彼を手放す気はなかった。デボラとデート中のベイビーを見つけ出し、なかば脅迫して、また犯罪に協力させようとする。

 このドクがいい味を出している。一見、ぶっきらぼうな紳士面した中年男。それでいて怜悧な感じもにじみ出ている。
 この先のストーリーは追わないので、見てのお楽しみ。
 だが、ラスト、郵便局強盗に失敗して仲間割れも起こし、ボロボロになったベイビーを冷酷に見捨てるか、と思ったドクが、寄り添うように現れたデボラを見て「昔を思い出した」と言い、ベイビーの逃走に手を貸すシークエンスがいい。
 ちょっとネタバレだが、このときドクがベイビーに手渡した黒いバッグが逃走資金とかではなく時限爆弾で、実は口封じをねらっていた――などと深読みしてしまったが、別にそんなことはなかったぜ!
 いやほんと、このドクの最期にわたしは惚れてしまった。

 こんな流れのクライム・ムービーだが、ラストはそれまでの伏線を回収して爽やかに終わる。
 今は友人だけれど、友人以上になりたい異性と観るデート・ムービーとして実にお勧めである。ドンパチ映画だけに、多少の流血シーンはあるが、グロ耐性が低い方にも大丈夫だと思う。大丈夫じゃないかな? まちょとそれは人それぞれか。

 前述の通り公開館が少ないのが残念だ。レンタルで観るのなら損はしない一本、と言い切ってしまおう。
posted by 結城恭介 at 08:00| 書評・映画評