2018年01月27日

【回想録】mp3の衝撃

 mp3を知ったのは、私的ネット内でのY君の一報からだったと思う。1997年7月のことだ。
「最近現れた、mp3という技術が面白そうです。CDからリッピングしたwavファイルを変換すると、一分が1メガくらいにまで圧縮できます」

 当時はまだCD-Rが出始めてちょっとの頃。まだwavからの圧縮は考えられないような時代だった。
 もちろん、誰でも使える便利な変換ツールなどはまだ存在していない。
 わたしや皆も、Y君が紹介してくれた海外のコマンドラインでしか動かないフリー圧縮ツールを試行錯誤でいろいろ試し、mp3変換をそれぞれ試してみた。

 当時のわたしの持っているマシンのパワーでは、三分のmp3を作るのに、30分かかった。マジである。

 それでも、30メガのファイルが3メガにまで圧縮でき、しかも再生してもほとんどオリジナルと音質が変わらないことに、皆、驚嘆した。

 当時はまだ光回線はもちろん、常時接続でもない時代だったが、わたしはこれは衝撃的な時代の変換点だと思った。この先、多くのCDはリッピングされて圧縮され、ネットに流されるようになるだろう、と。

 作家のたくきよしみつさんが主催していた、そちらの私的ネットの方でも、mp3という驚異的な技術が、これから先、音楽産業を根本から変えていくという予感があります、と書き込んだ覚えがある。

 そして実際、mp3はいろいろな状況を変えた。Web割れはもちろん、WinMX、Winny時代は、もう普通のようにmp3が著作権無視状態で垂れ流されていた(当時はもうmp3より動画のやりとりの方が主流になっていた)。「もせ3」という隠語が懐かしい。

 mp3は音楽プレーヤーも変えた。それまで最新のポータブルプレーヤーはMDであった。それがまずは、海外の名もない新興メーカーによるmp3プレーヤーに侵食された。
 わたしが最初に買ったmp3プレーヤーは、なんとスマメ(スマートメディア)使用のものであった。今の時代、おそらく「スマメってなに?」という人も多いであろう。

 mp3は、人々の「耳」も変えたような気がする。わたしの世代は44.1kHz/128kbpsと、オリジナルwavの区別がほとんどつかなかった。今の若い人はこれの差がすぐにわかる「耳」をお持ちだろう。

 CD2WAV32や、「午後のこーだ」が出始め、やっとリッピングから圧縮までをハイスピードでできるようになった頃、CDで埋まっていた書棚をコンパクト化しようと試みたのだが、「どうせ聞き分けられないし」と、44.1kHz/128kbpsでみな作ってしまったのが残念である。いや、自分は聞き分けられないのだから、別にこだわることもないのだけれども。

 最近はHDDのバイト単価が安くなったものだから、ケチケチして128kbpsにする必要もないと、320kbpsで作るようにしている。

 いくらmp3化が簡単になったからと言って、Bach Complete Worksの160枚をmp3化するのはさすがに大変だった(言うまでもないが、コピーガードの施されていない音楽CDを私的利用するためにリッピングおよびmp3化することは合法である)。
 同じバッハのコンプリートシリーズが、一本のUSBメモリに記録されて売られていることをあとで知りほぞをかんだがあとの祭り。いやしかし、そういう時代になったのだなぁ、と、感慨も深かった。

 最近はmp3ではなくFLACで保存する、という方も多いらしい。それでもわたしはmp3が好きだ。それはやはり、mp3がある意味スタンダードだからで、それがアングラからスタンダードになる歴史を、ともに歩んできた、という思いがあるからである。

 圧縮フォーマットであるmp3にはライバルもたくさんいた。しかしmp3は生き残った。それはmp3がオープンだったから、だと思う。わたしはそんなmp3の心意気に惚れたのだ。

 この記事も、Bach Complete Worksの142枚目のmp3を聞きながら、ネットカフェで書いている。
「【日記】バッハを聞きながら」でも予告したが、全枚聞ききるのが目標なのである。全160枚まであともう少し。
 こんなことができるのも、mp3化してスマホに入れてあるからこそだなぁ、と思う。
 でなければ、もっと早くに挫折していたかもしれない。

 これから先、mp3が、消えていった他の規格のように過去の遺物になることはあるのだろうか。ないとは言えないだろう。しかしそれはきっと、わたし自身の命が尽きたあとの時代の話だろうな、と、そう思いたい。
posted by 結城恭介 at 08:00| 回想録