2018年05月10日

【回想録】加湿器の思い出

 去年から今年の冬にかけて、加湿器を一度も使わなかったことに気づいた。比較的暖かい日が続き、ヒートポンプ式のエアコン暖房をあまり使わず、ガスファンヒータを多用したのが良かったようだ。

 正直、加湿器はあまり好きではない。いや、最初は、こんなにすごい発明はそうそうないぞ、と気に入っていたことを思い出す。

 まだ予備校生だった頃、秋葉原で出始めた「超音波式」の加湿器を買って帰宅し、水を入れて、ミストが出始めたときは感動した。
 当時の秋葉原の店頭では、どこの店でも、あの超音波式のミストをパヒューと出してディスプレイしていたことを思い出す。
 狭い部屋で、興味本位で加湿器を使っていたものだから、むしろ空気が湿ってしまった。実際には、当時のわたしにの部屋には必要のないものであった。

 賞をいただいて部屋を改築し、書斎にしてからは、今は珍しいFF式のガスファンヒータを入れたせいで、部屋の乾燥が激しくなってしまった。余談だが、このFF式の暖房機、換気の必要がなく便利だったのだが、最近はめっきり(完全に?)なくなってしまったのが残念だ。
 さて、乾燥が激しくなってきたので、押し入れにしまい込んで、秋葉で買った超音波式加湿器の再登場である。
 置き場所も決めて、フシューとやる。部屋の乾燥もいくばくか楽になり、これは良い。

 と、思っていたら――思わぬ伏兵があった。これも当時出始めていたCDの再生面に、べったりと白い皮膜がつくようになってしまったのである。
 当時はネットなどという便利なものはなく、説明書に頼るしかなかった。加湿器の説明書を引っ張り出して、細かいところまで読んでみると、水道水のカルシウムなどが家具につく場合がある、となっている。「場合がある」どころか、CDにべったり、である。これではこれから先、使いたいとは思わない。
 一応、解決法も記されていた。別売りのフィルターセットを買って、それで濾した水道水を使ってくれ、とのことである。

 そこで再び秋葉へ。ところが、売っていないんだな、このフィルターセットが。同じことに悩んでいる人はそう多くないのか、わたしが神経質なのかはわからないが。
 店頭ではプシューとやる超音波式加湿器のデモをどこでもやっているのに、フィルターセットはどこもない。取り寄せもしない、という店も多かった。

 やっとみつけたのは、数十店も回った頃だったろうか。フィルターセットといっても、別に加湿器にセットするものではなく、漏斗のついた四角い箱、というようなものだったような気がする(もうよく覚えていない)。
 これを買って意気揚々。帰宅して、水道水を濾して、超音波式加湿器に入れた。その結果は――



あのひとのチャクラは鋸屑がびっしり
あのひとのクンダリーニは黐がべっとりついてとぐろ巻き
(R・D・レイン「好き? 好き? 大好き?」より引用)


 やっぱり、CDにべったりとカルシウムの膜がついてしまうのである。前よりマシ、といったレベル。もうこれは、どうにもならんものなのだな、と、結局どうしたかというと、加湿器の使用をあきらめた。

 結局、この加湿器は不燃ゴミとして廃棄。部屋の乾燥は我慢することに。

 ところがそのうち、マスコミが「超音波式の加湿器は雑菌の温床」などと言い出すようになった。なんとも、いまさら!? な感じである。
 超音波式ではなく、沸騰式の加湿器ならば雑菌の問題も解決できる、とのこと。
 わたしの頭にひらめくものがあった。ひょっとしたら、その沸騰式の加湿器ならば、例のカルシウム問題も起きないのではないか、と。

 当時はこの「超音波式は雑菌の温床」問題は注目され始めたばかりだったので、沸騰式のものを探す方が大変だった。これもいくつか店舗を回って、やっとひとつ、購入することに成功。
 これは確か東芝製で、ほのかにルームランプにもなるという、デザイン性にも優れたものだった。
 水道水を入れて、スイッチオン。しばらく使ってみたが、おぅ、CDへのカルシウム付着問題も起きないようだ。
 当時のわたしの書斎は、広く、ミニマリストの独身男の部屋だったので、雰囲気も良かった。

 しかしこの東芝製は、一年で壊れてしまったのではないかな。しかも中を見ると、部品の方にカルシウムが固着してしまっているのであった。うーむ。部屋に飛ばなかったカルシウムは、機械の方に残ってしまうのか。考えてみれば当たり前のことだが、なかなかうまくはいかないものである。

 それから、沸騰式の加湿器を、数台、使ってきただろうか。これはもう、ある意味、消耗品なのだとあきらめた。沸騰部にカルシウムが付着したら、内部パーツが割れて使えなくなる、そういうものだ、と。

 今年使わなかった加湿器も、もう内部にカルシウムがベットリである。硬く固まって、重曹を使っても取れそうにない。
 それでも、この加湿器は、買い換える気が起きない。心臓病だった息子が部屋にいたとき、使っていたもの、だから。

 何シーズンを経過しても、心のウェットさは、なかなかカラリと晴れたりはしないようだ。
posted by 結城恭介 at 08:00| 回想録