2018年06月27日

【回想録】「家庭の医学」の思い出

 ネットの出現によって消えたモノは少なくないが、その中のひとつに「家庭の医学」がある。おそらく、ミレニアル世代の人には「家庭の医学」がなんだかわからないのではないかな?

「家庭の医学」とは、辞書のように分厚く、いろいろな病気の症状、症例、治療法などが載っている本の総称である。「家庭の医学」という名のベストセラーがあったわけではなく、各社がいろいろと出していた。まだ印刷機が高い時代で、どの社もパートカラーだったと記憶している。

 そして、そこに載っている医学写真が、またグロテスクなのである。「家庭の医学」と銘打ってはいても、中身は奇病珍病不治の病のオンパレードで、「もしこんな病気にかかったらどうしよう」と、恐る恐るページを繰るのが、当時の子どものホラーのひとつであった。

 体にできたデキモノの写真とか、顔が崩れた性病患者の写真とかは、特に恐怖の対象であった。
 そんな心配をするようなことをしていたわけではない中坊どもが、みな、「もし自分が性病になったらどうしよう」と、恐怖におののいたものだ。

 手塚治虫の名作「ブラックジャック」を知らない人はいないだろう。神業のようなメスさばきで人を救い、人間愛をうたいあげる名作である。マンガのカバーには「ヒューマン・コミックス」と銘打たれていた。
 これが初期の数巻は、「恐怖コミックス」となっていたのである。
 版数を重ねて、それが変更されたかどうかは知らないが、子ども心にも、「このマンガが恐怖コミックス≠ニいうのは違和感あるなぁ」と思ってはいた。
 しかし、最初「恐怖コミックス」にカテゴライズした編集者の頭の中には、やはり「家庭の医学」というホラー本の存在があったからこそなのだろう、と思う。

「家庭の医学」は中学の図書館にも置いてあり、みなでわいわいと見たこともあった。
 やはり中学生ということで、興味は性♀ヨ係のことになっていく。

 っと、ここから先は、ちょっとアダルトなお話。お子さまはお休みください。ねーむれ、よい子よー。

 ある日の放課後、中坊が頭を寄せて、必要もないのに、避妊のページをみなで読んでいたのであった。当時の我々は悪ガキで、スキンを自販機で買って水を入れ、ベランダから投げて炸裂させ喜んでいるような子どもであった。別段深い理由でもない。校舎の三階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても……いやそれは違う話。

 こんな連中なので、避妊法というものがいくつかあることは知っていた。
 さて、みなで繰っていた「家庭の医学」の避妊の項目中には、当時「膣外射精」というものもあり、そのデメリットとして「心理面のみ」と記されていた。
 われわれ悪ガキは、頭でっかちだったので、この「心理面のみ」という一文がよくわからなかった。
「これさ、心理的によくないってことは、精神的に、なにかまずいことが起きるってことだよな?」
「やっぱりそういうことになるよなー」
「そうだよ、膣外射精し続けてると、きっと発狂しちゃうってことじゃね?」
 悪ガキどもは震え上がった。「膣外射精こえぇー」

 この病、ブラックジャックでも治せまいよ。

 当時、震え上がった連中のほとんどが、今は数児の父親になっているということは、みな、発狂するようなことはしなかった、ということなのかな(笑)。

 今は珍しい「家庭の医学」を書斎の片隅で見つけ、こんなもん、もういらないな、スキャンもせずに捨てるかな、と思ったので、この記事を代わりに書いてみた。

 なお、当時はともかく現代において「膣外射精は避妊法ではない」というのが常識になっていることは、最後につけくわえておこう。
 やっぱり心理的に悪影響があったからなんだ。発狂しちゃうからなんだ。こえぇー(笑)。
posted by 結城恭介 at 08:00| 回想録