2018年12月01日

【日記】脱税? いえ、見解の相違です。

 企業関係のニュースでは、よく――

「××社が○○円の法人税の申告漏れを税務署に指摘されました」
「××社のコメントによりますと、税務当局と『見解の相違』があり、すでに修正申告を行い納税いたしました。今後はこのようなことがないよう努めます、とのことです」


 といったものが流れることがある。
 会社経理を知らない人だと「××社は『脱税』していたのを見つかったのだろう。まったくけしからんことだ」と腹をたてるかもしれない。

 しかしちょっと待ってほしい。一度だけなら……って、このフレーズはちょっと違うな。とにかく、ことはそう簡単ではないのである。

 わたしの会社は編集プロダクション業務も行っている。請け負っているタウン誌やウェブサイトなどのメディア上に、ライター、イラストレーターの先生に原稿を書いていただいた場合、相応の原稿料をお支払いするのだが、もちろん、その中から一割は源泉徴収して税務署に納税し、一月末に税務署へ提出する法定調書にも、その旨を記載している。

 ライター、イラストレーターの先生には支払い調書をお渡しし、個々で確定申告をお勧めしているが、そこから先は先生方個々の問題で、弊社とは関係のない話である。

 さて、問題は――例えばタウン誌の原稿に穴があいてしまった場合、弊社の役員たるわたしが、なにか穴埋め原稿を書くことがないとは言えない、ということである。
 このケースで、わたしが会社から、ほかのライターさんのように原稿料をもらえるか否か?

 前提として、会社役員の役員報酬は、基本的に、期首に取り決めた報酬額を、途中で増額することはできないことになっている(減額はよい)。これは、その期で期首の想定より売上高が高かった場合、役員報酬を上げて会社の損金に算入できる費用にし、納税逃れを防ぐための仕組みである。

 さて、それでは前述のように、わたしが穴埋め原稿を書いて、会社から原稿料を、いち個人としていただいた場合、これは不正な役員報酬の増額となるのだろうか?

 みなさんはどう思われますか?

 正直、わからない。カンでは源泉徴収という形で納税しているし、お金のフローは法定調書の提出で税務署へもクリアになっており、大丈夫だと思うのだが、万が一、ということもある。
 ということで、税務署にこの件をお尋ねに行った。

 相談に乗ってくださった署員の方は、こちらが用意していったレジュメを一読し――
「これは問題ないでしょう」
 と、笑顔ですぐにおっしゃってくださった。

署員「一応、法人税課の方にも確かめてみますね」
わたし「よろしくお願いします」

 と、署員の方が席を立って、ほかの部署へ確認へ行き、かなり時間が経つ……。秒針が進むにつれて、なにか、いやーな感触が心の中にわいてくる。
 そして戻ってきた署員の方の顔は、ちょっと困ったような表情になっていたのであった。

署員「ええとですね。法人税課の方に確かめたところ、この『原稿』が、会社の業務にあたるものならば、その原稿料を役員に支払った場合、会社の損金にはできない費用になるということで――」
わたし「えっ、『会社の業務にあたるものならば』ですか?」
署員「そうなんですよねぇ」
わたし「例えば、そのレジュメにあるように、穴埋め原稿などの場合、どっちにあたるのでしょう?」
署員「うーん……。その判断がですねぇ」
わたし「『会社の業務にあたる』と言われればそんな気もしますし、『会社の業務ではない』と言えば、それで通るのではないですか?」
署員「そのあたりが難しいところなんですよね」
わたし「うーん、もしもの話ですが、税務調査が入った場合、こちらが『会社の業務ではない』と主張しても、税務署側からは『会社の業務である』と指摘されるケースも考えられる、と?」
署員「そういうことになりますね。こういうお返事しかさしあげられなくて、もうしわけないのですが……」
 最後は謝られてしまった。

 これが、冒頭に書いた「見解の相違」の一例なのである。
 こういった「見解の相違」はほかにもたくさんあって、税務調査が入ったら、いわゆる「おみやげ」として、税務署側に倒した「見解」で修正申告、納税をするわけである。

 上記の原稿料のケースでは、会社からわたしに原稿料を支払ってももちろんよいのだ。しかし、期末後の法人確定申告では「損金に算入できない費用」として処理しなくてはいけない。

 結局のところ、わたしは、わたしの会社から、わたし個人に原稿料を支払うことはあきらめた。安全側に倒しておこう、ということである。

 会社経理にうとい人は「企業が税務署から申告漏れを指摘された」というだけで、「脱税だ。けしからん!」と怒るが、実際の会社経理は白黒キッチリつけられるようなものではない、ということを知ってほしい。
 たいていの企業は良心的で、脱税する意志はまずないものなのである。

 企業の「法人税の申告漏れ」のニュースが流れ、企業側から、この「見解の相違」のフレーズが出てきたときは、ああ、きっとこういう事情なのだな、と察していただければ幸いである。
posted by 結城恭介 at 08:00| 日記