2019年08月28日

【映画評】ダンスウィズミー(ネタバレあり)

「【映画評】ドラゴンクエスト ユア・ストーリー(ネタバレあり)・その1」の記事では「ダンス・ウィズ・ミー」とナカグロを入れてしまったが、正確には「ダンスウィズミー」。監督は「ウォーターボーイズ」、「スウィングガールズ」、「ハッピーフライト」、「サバイバルファミリー」等を手がけた矢口史靖さんである。英語をカタカナにしたタイトルにナカグロを入れないのは矢口監督のこだわりなのかもしれない。

 さて、本作は劇場でフライヤーを手に取ったときから「これは観たい!」と惹かれるものがあった。なにより、くるりと回った主演の三吉彩花さんが放っている華が魅力的だったし、なにより、わたしはミュージカル映画好きなのである。
 ミュージカルというだけで点が甘くなる。なぜと言って、ミュージカルは絶対に文章が勝つことができない分野だから。歌って、踊って、観る人をわくわくさせるあの高揚感を、文章で出すのは(しかも散文で)不可能である。



 というわけで、「ハッピーミュージカルコメディ♪」とコピーがつけられている本作。Youtubeで流されていた公式トレイラーもなかなか見事な出来で、もうわくわくして公開日を待っていたのだった。

 あらすじ――ヒロインの勝ち組OL鈴木静香≠ヘ、バスの中で姪っ子に「いきなり踊り出すミュージカルはおかしい!」と熱弁して、まわりの客の注目を浴びてしまうほどのミュージカル嫌い。それは彼女が子供の頃、学校の舞台のミュージカルで大失敗をしてしまったトラウマがあるから。
 そんな彼女、姪っ子と入った怪しい催眠術館で、これまた胡散臭い催眠術師が姪っ子にかけた「あなたは音楽が流れるとミュージカルスターになれる」という催眠のとばっちりを受け、しっかり「音楽が流れるとミュージカルスター」になりきってしまうように。
 そこから先は、音楽を耳にすると、出勤前に、会議中に、デート中にと派手に歌い、踊りまくるようになってしまった。しかも本人はミュージカルスターのつもりでも、ハッと正気に戻ると、まわりはあきれ顔だったり破壊活動の跡のようだったりと、まさしく踊るテロリスト。
 静香は自分を催眠にかけた、あの胡散臭い催眠術師を追いかけ、いろいろな人を巻き込んで、東京から札幌までの珍道中を繰り広げることになる。


 そして実際にスクリーンで観た感想は、実に、実に楽しかった! 以前もなにかの映画評で書いたが、「観ている最中に楽しい映画」というのは、なかなか作るのが難しいものなのである。

 そして本作は、はっきり言って「ミュージカル」ではない。ミュージカルの歌やダンスが、キャラクターの心情を表したり、ドラマの進行を進めたりするのに対し、本作はヒロインやモブが歌い踊っても、それは「ミュージカルのパロディ」であって、心情やドラマ進行を担ってはいないからである。

 そしてミュージカルではない、この「ミュージカルのパロディ」シーンが最高に楽しい。ヒロインを演じた三吉彩花さんは歌い踊る最中ノリノリな上に、指先からつま先まで美しい。スクリーンから彼女の華がほとばしり弾け飛ぶ。

 一気に本作中の「ミュージカルパロディ」に引き込まれるのは、なんと言っても、オフィスで、シュレッダーのゴミが舞う中、集団で踊り歌う「Happy Valley」である。これはトレイラーでも観られるので、ぜひとも未見の方は検索してご覧いただければと。

 ストーリーは途中から、催眠術師「マーチン上田」の元助手(やしろ遊さん演じる斉藤千絵=jと一緒に、東京から北上して彼を追いかけるバディ・ロードムービーになる。ここから先は、大きな仕掛けのダンスなどはなく、ちょっとちんまりしてしまうのが残念と言えば残念。
 途中で合流したchayさん演じる山本洋子≠ェ、元カレの結婚式に「ウェディング・ベル」を歌いながら乱入するシーンがあるのだが、ここではヒロイン静香にも、洋子をサポートしつつ派手に花婿に踊るテロリストぶりを発揮してほしかったところかも。

 なんだかんだとすったもんだがありまして――最後の大団円「タイムマシンにおねがい」のシーンが一番好きだ。ここはカーテンコールなので、今までの登場人物が皆登場する。静香のトラウマも伏線回収して、まさしく「タイムマシンにおねがい」だ。

 劇場が明るくなったあと、隣の細君と顔を見合わせて「楽しかったねー」とうなずきあってしまった。

 この夏は、細君とともに、つらく、悲しい出来事があり、涙の中それを乗り越えてきたのだが、それが一息ついてから観た、この楽しい映画のことを、わたしは一生忘れないだろう。

 笑って流す涙って、いいよね。
posted by 結城恭介 at 08:00| 書評・映画評