2022年10月01日

【書評】「女心@男子高校生」

 竹屋まり子「女心@男子高校生」(全1巻)



 本書、いいですよぉ! わたしが読んできたTSFモノの五指、いや、三指に入る傑作と断言してしまおう。
 一回読んで、続けてもう一回読んで、そして日が明けてからまた読んで、この記事を書くためにまた通して読んで、そしてニマニマしている。
 こんなに超弩級ストレートに(わたしの)嗜癖に突き刺さってきた作品は初めてかもしれない。ってことはベストワンってこと!?
 いや、もう、そう言っちゃってかまいません!

 ストーリー――高校生の夜野蓮は、小説を書くのが子どものころからの趣味。できあがった作品をネット投稿しているが、いつも指摘されるのが「女心がわかっていない」という点。それはそうだ。蓮は恋愛経験はもちろん、女友達もいないという陰キャ。モテモテのクラスメート、イケメンの朝日奈君に、内心、嫉妬しているくらいだ。
 そんな彼が怪しい通販で見つけたのが「飲むだけで女心ワカ〜ル」というクスリ。誰がそんなもの買うんだよ?



 なんと、女心がわかるどころか、自分が女になってしまった! しかも効用期間は一年間。そして「効果期間内に、特定の男性に恋愛感情を抱くことで女性ホルモンが過剰に分泌された場合」――



 つまりこの一年間、もし男に恋をしてしまったら、一生、女になってしまうということ。
 なーんだ、じゃあ大丈夫。男にときめくことなどない、と思っていた蓮だったが、なんとイケメンの朝日奈君が、なんやかやと興味本位のクラスメートたちから守ってくれる。
 その理由も、イケメンのチャラチャラした理由ではなく、ちゃんとあったのにびっくりする蓮(このあたりはネタバレになるので書かない)。


(この「ぐぬぬ」な蓮が可愛い!)

 朝日奈くんにときめいてはいけない。男に戻れなくなってしまう。このジレンマに陥りつつ、蓮と朝日奈君、友人の夕川君(これも非モテ男子)のドラマが始まる。


 いやもう、女の子になった蓮が可愛いのなんの。
 ボサボサ髪に仕草はだいたい男のままなのだが、朝日奈君にときめいてしまう一瞬や、失敗した彼に母性を感じてしまう瞬間などに、もう、抱きしめたくなるほど可愛い表情を見せる。
 竹屋先生は表情を描くのが本当にうまい。

 そして友人の夕川君もいいキャラ。蓮と一緒に昼食を食べていて――


(はい、「罵倒声も高音だと心地良し…」いただきましたーw)

 その後、課外学習の劇で「白雪姫」の姫に選ばれた蓮。王子さまはもちろん朝日奈君。



 ここからのシークエンスもネタバレになるので書けないが(書きたい!)、朝日奈君のイケメンな演技に「姫の気持ちが少し理解できたかも」という蓮に夕川君が言う。



 蓮はその夜、一気に作品を書き上げるが、夕川君には見せられても、朝日奈君には読ませられない。なぜって……。そう、あなたのご想像通り、蓮は朝日奈君にほのかな恋心を持ってしまったのだ。
 このままでは男に戻れなくなってしまう。
 なのに、朝日奈君のイケメンらしいアタックも続く。もう読んでいて、蓮がいじらしく、それが楽しいのなんの。

 そして怒涛のエンディングへと続いていく。ネタバレを避けているので、ここを書けないのが本当につらい。しかし読後感は最良である。

 竹屋先生のストーリーテリングがうまいのは、TSFモノの枝葉末節(たとえば、性転換してしまったら家族が、とか、制服を着るのにドキドキ、とか、同級生との絡み)をバッサリと立ち切って、焦点を朝日奈君と夕川君の動きにしぼってまとめ上げたころだ。
 要するに、ストーリーのまとめ方が映画的ではなく舞台的なのである。これは実は、かなりの練達者でないとできない技でもある。

 そして、ここでこのセリフがこないと! というところで、大ゴマでバッチリとそのセリフを蓮に言わせる。うまい!
 そのコマをここに貼れないのがくやしい。だが、わたしがどのページをそう言っているかは、読めば必ずわかるので、ぜひともあなたの目でお確かめいただきたい。

 ここ数年「刺さる」という表現が一般化したが、本作が刺さるのは――

・TSFモノが好き。
・ラブコメが好き。
・TSしちゃった男の子(体が女の子)が男に恋してしまう。

 こういう嗜癖がたまらないという方。ぜひぜひぜひ! お読みいただきたい。もうね、心臓に深く刺さりますよ。ズブッと。絶対に損はさせない、と保証の太鼓判をバンと押すから。

 こうして記事を書きつつ、コマを切り出していくのも楽しかった。
 竹屋先生、すばらしい作品をありがとうございます! 本当に本当に楽しかった。珠玉という言葉があるが、本作はわたしの中で、TSFモノのひとつの理想のかたちをまったく瑕疵なく具現化したものになりました。

 最後に、蓮と朝日奈君の幸せそうなショットを貼って(夕川が盗撮したのかな〜?)この記事を締めたい。


posted by 結城恭介 at 08:00| 書評・映画評